有機JAS認証ブルーベリーを「ど根性栽培」する信州・安曇野の元公務員!農業で楽しい田舎暮らし
長野県安曇野市にある「幸せフルーツ工房」で、有機ブルーベリーを栽培しているのは神﨑辰哉(かんざきたつや)さん。「農村には自分らしく生きていける要素がたくさん詰まっている」と日々実感されているそうです。
神﨑さんのオーガニックブルーベリー
―今年もたくさんブルーベリーの実がなっていますね!
そうですね。今年でブルーベリーを栽培して5年目になりますが、毎年ブルーベリーの樹が大きくなっていくにつれて、ブルーベリーが獲れる量も増えてきています。まだまだ成長途中の樹や、これから新しく植える樹もあるので、今後はさらに増えていくと思います。
―神﨑さんのブルーベリーの特徴を教えてください
全国的にも珍しい「オーガニックブルーベリー」を、より自然の形に近いよう工夫しながら露地栽培しています。千葉県の江澤貞雄(えざわさだお)さんが提唱している「ど根性栽培」という栽培法なのですが、ブルーベリー本来の生命力を発揮させることで、甘みが強くて濃い味のブルーベリーが育ちます。
初めて食べられたお客様は、その味に驚かれることも多いんですよ。「今までブルーベリーは苦手だったけど、ここのブルーベリーは食べられた」という方も何人かいらっしゃいました。
―「ど根性栽培」とは?
ブルーベリーは酸性で水はけの良い土壌を好むので、一般的には土壌改良をして栽培することが多いのですが、江澤さんは「基本的には何もしないでください」とおっしゃるんです。ですから、ブルーベリー園に苗木を植える時も、バーク(樹の皮)や硫黄の粉(土壌の酸性度を上げるために使うもの)を苗木の周りに使うぐらいで、後は水やりもほとんどしないですね。
ブルーベリーの樹が吸い上げる水の量が少ないと、その分、実の甘さや味が凝縮されるというわけです。
―甘さが凝縮!糖度はどれくらい?
昨年の物にはなりますが、ブルーベリーの糖度を測ってみると、概ね14~17、一番高いもので糖度は17.2でした。
※掲載の内容は農園の採用する栽培方法の優位性、及び栽培方法と高糖度に直接的な因果関係を主張するものではございません。糖度は品種、収穫時期、収穫方法など様々な要素によって異なります。
―手間暇かけないと樹が枯れてしまいそうですが?
「ど根性栽培」で本当に収穫できるのか、最初の2年くらいは正直なところ不安でした。
また、長野県は寒冷地なので基本的にラビットアイ系ブルーベリーは経済栽培(収益を得る栽培)できないと言われていたのですが、そこにチャレンジする不安もありました。
いずれも周りに事例が少ないという不安でしたが、結果的には問題なくて、周りでやっている人もほぼいなかったため、収穫時期のズレなどはむしろ有利に働いています。挑戦してみて良かったです。
―他にも工夫されていることは?
「草生(そうせい)栽培」といって、敢えて草を生やしてそれを活かすこともしています。草の高さをある程度残して刈ることで土壌の保水力を高めたり、熱を遮るので猛暑にも対応できたり、あとは害虫の天敵の住処になるので害虫被害を少なくできることにも繋がっています。
肥料もほとんど必要ないですし、無農薬での栽培も可能になっていますね。
草刈りは場所によって、電動草刈機や乗用草刈機、そして手刈り用の大鎌(信州鎌)を使い分けています。特にブルーベリーの樹の周りを草刈りする時は、樹を傷つけないように大鎌で手刈りしています。慣れるまでは苦労しましたが、コツを掴むと楽しくなってきました。
地方公務員から農業へ転身
―有機JAS認証を取得されていますよね?
はい。2022年の12月に取得しました。自分がやっている「無農薬」や「有機栽培」といったことを表記するためには、有機JAS認証を取得していないとできないという決まり・法律があります。なので取得しました。「自分がやっていることは、しっかりと胸を張って言いたい」という想いが強かったんです。
―キッチリしているのはさすが、元公務員!
子供の頃から自然や生き物が好きで、学生時代には森林の勉強をして、栃木県と長野県で合計13年間、林業の技術職員をやっていました。
趣味で野菜を作り始めたのがきっかけで、畑で起こる「奇跡」のような作物の成長の喜びや、森林と同じような生き物の循環が面白いと感じるようになったんです。
―「奇跡」とは?
農業に携わるまでは農業を知らなかったというか、「肥料をあげたら作物が育つ」という工業的なイメージだったんです。ところが、実際は違いましたね。生き物が関わって作物が育つのを見たことがあって、作物自身が元気になっていく。人間の想像をはるかに超えていました。
―そして農業の道を志すようになった?
人生100年時代で先は長い。ずっと働き続けるとしたら何をしたい?どういう日々を過ごしたい?そのようなことを考えるようになりました。
そして、自然の働きと人間の営みが調和したような毎日を送りたいと思って、県職員を辞めて農業法人で経験を積みながら独立の準備もして、就農しました。そこからブルーベリーの栽培を始めました。
―ご家族は反対しなかった?
妻は「農業をやったことがないから不安」という気持ちと「好きなことはさせてあげたい」という気持ちの間で葛藤していて、反対と言うよりは困っていたというか心配だったようです。
でも、そんな妻を説得したというよりは「いつかは農業をするようになるだろう」「今なら体力はあるし、まだ子供にそこまでお金がかからないから」という流れになって農業を始めた感じですね。
―ブルーベリー栽培を選んだのはなぜ?
子供の頃からフルーツが好きだったので、その原点に返ってフルーツの栽培をしたいと思っていました。フルーツの中で自然に即した作り方でできるものを探していたら、偶然ブルーベリーのことを知って、「これだ!」となって始めました。
一番の苦労は農地探し
―農業を始めて大変だったことは?
農業を始めてからというのは、正直なところあまりないですね。どちらかというと、私が農家出身ではないので、ブルーベリーに適した農地を探している状況の時の方が大変でした。「本当に始められるのか?」という感じで。
―借り手を探している農地は多いと聞きますが?
最初は農地の探し方が分からなくて。
農地を借りるハードルは下がっているのですが、地域によっては受け入れ態勢が整っていなかったり、情報を聞きに行く先が場所によって違っていたりするんです。
一方で、農地を貸す方としても「どんな人や会社が、どんな風に農地を使うのか」という不安があるようで、なかなか苦労しました。
―無事に農地が見つかって良かったですね
本当にそうですね。ブルーベリーは日当たりが良くて水はけの良い土地を好むので、そういう場所を探していました。
今の農園がある場所は、周りに日差しを遮るものがなくて日当たりが良いですし、火山灰土の扇状地で水はけも良いんです。潅水(かんすい=水やり)の設備が無いので通常なら困るんでしょうけど、「ど根性栽培」のブルーベリーはほとんど水やりしないので、それは問題にならなかったですね。
そして何より、今の場所は景観が良いんです。当初から観光農園を想定していたので、最後は景観の良さで決めました(笑)。
家族の程よい距離感を大切に
―ご家族も一緒に農作業をされるのですか?
普段は、私一人が農園で仕事しています。妻は在宅ワークが可能な仕事をしているので、そちらをやっています。
私が畑にいる時は、農園の中で子供たちを遊ばせられるので便利ですよ(笑)。
―おひとりで作業は大変では?
もともと趣味が家庭菜園で、それが仕事になっただけなので苦ではないですね。
ただ、ブルーベリーの収穫が始まると、妻にも収穫や発送を手伝ってもらっています。収穫は、ブルーベリーの実を1粒1粒目で見て、完熟しているものだけを手で摘み取っていくので、とにかく時間がかかるんです。とても私一人では追いつきません。でも、完熟したものだけをお届けしたいので、収穫には時間をかけてきっちりとやっています。
―家族の丁度良い距離感を感じます
妻は、がっつり農業や田舎暮らし派というわけではありませんが、農業に関しては出来る範囲内で手伝ってくれています。
私はがっつり田舎暮らし派なんですが、家族で一緒に暮らし続けていくにあたっては、程よい距離感が大切だと考えているので、それで良いと思っています。
―田舎暮らしをしてみての変化は?
子供たちは昆虫を集めたり、畑で遊んだり、イチゴを自分たちで栽培して食べたりしています。
妻も冬には干し柿を作ったりと、家族もだんだん私の価値観に似てきているような気もします。
インターネットなどが普及して、田舎でも本当に不自由なことは少なくなってきているので、ごく普通の人でも田舎暮らしが楽しめる可能性があるような気がしています。
楽しみながら続けていける農業を
―これから取り組まれたいことは?
意外に思われることも多いのですが、私自身は決してブルーベリー栽培だけにこだわっている訳ではないんです。
もっと「農村コンテンツ」を活用した、生活をしたり商品やサービスをつくり、それらを提供していくことをテーマにしています。
現在取り組んでいる、ヘーゼルナッツ、食用ローズ、エディブルフラワー、ハーブなどを始め、まだまだやりたいことがあります。
―壮大な計画がありそうですね
あまり目標を細かく設定すると、やる気が無くなってくる方なので(笑)、細かい目標は立てないようにしていますが、5年・10年楽しみながら続けていけるように毎日を大切に取り組んでいきたいです。
働き方や生き方が多様化していく時代の中で、農村には自分らしく生きていける要素がたくさん詰まっているような気がします。
最近は、人や自然に優しい農業が、より評価して頂ける機会が増えていると感じています。人や自然に優しい「続けていける農業」が広まっていくと嬉しいですね。
以上。
幼い頃から自然が大好きで、以前は林業技師の県職員をされていた神﨑さん。その時の経験が、冬場の樹の剪定に活かされているとも仰っていました。
1年を通じて大切に、そして楽しみながら育てられた神﨑さんのオーガニックブルーベリーは、これまでブルーベリーが苦手だった方でも美味しく召し上がれる、優しさ溢れる味わいです。
神﨑さんの有機ブルーベリーは夏が旬。ぜひ皆さんもご賞味ください。
◎神崎さんのブルーベリーは楽天市場で購入いただけます。
- この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
- 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
- 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。